地続きの床と浮床
都内の住宅地、周囲を取り巻く都市環境には建物や空地、塀や擁壁等の構築物といった物理的な要素に加えて、古くからの緑地や地形、造成された宅地といった時間の重なりも包含している。そうした周囲の様相と物理的な接続だけでなく時間軸も含めて連続的な関係性を築きたいと考えた。
1960年代になだらかな丘を切り崩し広大な畑が区画されてできた住宅地の中、袋小路の行き止まりに敷地はある。
道路と敷地には約2mの段差があり、崩れかけた地下駐車場と木造の古家が建っていた。
背後にまわってみると宅地造成される前のゆるやかなアンジュレーションの自然豊かな緑地が広がっており、元来土地にある来歴を垣間見た気がした。
この敷地の造成を増強するために擁壁を再度作り直すことはせず、もともとのアンジュレーションの緑地の地形と造成後のひな壇の宅地を物理的にも時間的にもつなぎ、敷地の履歴が可視化されることを考えた。
既存の地下駐車場は隣地境界際の壁を残して解体撤去し、残した壁は山留として利用し、地下スペースとした。そうすることで古屋の背後に隠れていた緑地が通りに対して抜けて見えるようになった。敷地と道路の高低差はオープンカットで整えて、基礎と土留めを兼ねたRCの地続きの床が、敷地の高低差を浮かび上がらせるように段差を持って奥の緑地へと続く。
基礎の立上りには気積いっぱいに広げた木のボリュームが載り、ボリューム内部には折版状に組まれた木の床を引っかける。
土地の履歴を引き継いだ地続きの床に対し、敷地の来歴から切り離された汎用性のある木の箱、さらに木の箱に対して自律性をもった木の折版床。街を引き込むRCの床と森に浮かぶ木の床が、宅地と緑地を時間的・物理的に接続する。
基礎と木部の接面は、宅地造成された元の敷地地盤面の残滓である水平のラインとして建物を横断する。水面から顔を出し潜るように、地下と地上、土地の時間をまたがり上下しながら日々の生活が営まれる。
用途:住宅
敷地:東京都
敷地面積:130.63㎡
建築面積:56.78㎡
延床面積:117.74㎡
階数:地下1階 地上2階
構造:木造+鉄筋コンクリート造
竣工:2020年2月
写真:新建築社写真部
media:新建築住宅特集 2021年4月 初出展02(円錐会)2018年3月