サクラと住宅

サクラと住宅

2層のRCと、3層の木造からなる店舗併用住宅。敷地の一角に立つ老齢化したサクラの樹木とともに、ゆるやかに生成変化しながら街並みとの関係をつくっていく建築を考えた。
都内の住宅地、建主が購入を決めた敷地は交差点に面し、その一角には樹齢30年ほどのソメイヨシノが植えられていた。このサクラが伐採された後に敷地が手渡されるとのことだったが大きく枝葉を広げたその樹はすでに個人の所有を超えて地域の共有財産のようでもあり、何とか残せないだろうかと考えた。売主の了承を得て樹木医に診断してもらったところ、まだ元気であり、将来樹木が老齢化しても根から水を吸い上げ、葉で光合成を行うシステムは生き残り、足元から出た枝が老齢化した幹に変わり樹木化して世代交代するという話を聞き、この樹を残すことにした。
サクラには色を変え落葉する葉、樹木に生息する虫の生命、年月をかけ変化する樹形、さまざまな時間軸の重なりが見られる。このサクラのように変化し続ける、時間軸と重層性の建築を考えることにした。
設計初期に樹木医と共に桜の根張り、枝張りを調査し、それに基づいて配置計画や建物形状の検討を進めた。
構成は、外的要因により定められた2層のRC架構と内的要因による3層の木架構の重ね合わせから成る。サクラの枝張りに合わせて階高の大きなRCの骨格を設定する。そこに居場所をつくっていくように木の床組や造作を重ねていく。2階のバルコニーとして外側に張り出したRCの臥梁とその内側に架けられた木造床がずれることで、内外上下に各層を横断した街との立体的な関係性が生まれる。サクラや街区に呼応した長期的な時間軸を持つRC架構と、より短い生活スパンに対応した木架構による2重の構造性を持った建築である。
こうした異種架構や生活要素、そしてサクラの木、それぞれがずれながら重なり合うことでゆるやかに生成変化していく、時間軸を内在した建築を目指した。
 
用途:店舗併用住宅
敷地:東京都
敷地面積:109.93㎡
建築面積:59.81㎡
延床面積:133.93㎡
階数:地下1階 地上3階
構造:鉄筋コンクリート造+木造
竣工:2020年8月
写真:長谷川健太
media:新建築住宅特集 2020年12月